第77回日本臨床眼科学会報告
その1 ~網膜色素変性の遺伝子治療認可~|森井眼科クリニック|神戸市東灘区御影駅前

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    第77回日本臨床眼科学会報告
    その1 ~網膜色素変性の遺伝子治療認可~|森井眼科クリニック|神戸市東灘区御影駅前

    第77回日本臨床眼科学会報告
    その1 ~網膜色素変性の遺伝子治療認可~

    こんにちは。

    10月6日から9日に東京フォーラムで開催された、第77回日本臨床眼科学会に参加しました。
    学会では発表とセミナー講演等させていただきました。

    その1で「網膜色素変性症に対する遺伝子診断と治療が認可された内容を、
    その2で「iPS細胞の網膜再生治療の最新情報」
    その3で私のモーニングセミナー講演の内容「企業とコラボして制作している器具~かおりシリーズ」と
    一般講演の内容
    など報告させていただきます。

    網膜色素変性症に対する遺伝子診断

    今年、「遺伝性網膜ジストロフィー」に対する遺伝子診断と治療が日本で保険診療として
    厚生労働省から認可されました。

    遺伝子変異により網膜の機能に進行性の障害をきたす一連の疾患の総称です。具体的には、指定難病対象疾病網膜色素変性症、アッシャー症候群、黄斑ジストロフィーなどが含まれます。すべてが遺伝性ではなく、遺伝性でないものなども多くあります。この疾患の多くは、暗い場所でものが見えにくくなる、視野が狭くなるなどの症状があり、徐々に見えにくくなり生活に支障がでます。

    網膜色素変性症の患者さんは多く、我々眼科医は日常的に診察させていただいておりますが、病気の進行を止めたり、症状をよくする治療は今までありませんでした。
    この疾患の中の、遺伝性である網膜ジストロフィーは、原因遺伝子により、症状の重症度や進行度が多様です。2023年6月に、遺伝性網膜ジストロフィーの原因遺伝子の診断(遺伝子診断)が開発され、承認されました。
    この診断システムを構築したのは、神戸アイセンターと、神戸の企業の「シスメックス株式会社」です。神戸からこのような診断が開発されたことは、神戸市民であるわたくしも大変誇らしく思います。

    この遺伝子診断は83の原因遺伝子を調べるのですが、その中の原因遺伝子である「RPE65」の1つをターゲットとした遺伝子治療薬が日本でも承認されました。この遺伝子が原因である網膜ジストロフィーの患者様は日本では少ないのですが、この遺伝子があると幼少期から視力障害が強く成人になるころには失明に至る場合も多く、
    早期発見、早期診断、早期治療ができればその患者さんの一生が大きく変わりえると思います。
    原因遺伝子にあわせた治療計画などが策定されたり、遺伝カウンセリングが実施されたりすることで、早期に適切な治療を開始することができます。また、発症リスクや症状の進行予測を踏まえた就学・就職準備など、患者さんのライフイベントに合わせた事前対応が可能となることが期待されます。

    網膜ジストロフィーの遺伝子治療

    遺伝子治療のお薬は、ノバルティスファーマ株式会社が発売した「ルクスターナ」というお薬です。


    ルクスターナは、遺伝子の運び屋アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)により、正常なRPE65遺伝子を運び、正常なヒトRPE65タンパク質を長期間安定して発現させます。これにより、視覚障害が生じている視機能の改善が期待されます。日本では、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。

    投与方法は、硝子体手術を行い、網膜中心付近の網膜下にこのお薬を注射、網膜に遺伝子補充を行います。手術終了時に眼内をガス置換して、網膜の中心のアーケード内に薬剤が十分いきわたるように1日間仰臥位安静にする、という方法です。両眼に対し行います。

    治療適応となるのは、治療の対象となるのは、「両アレル性RPE65遺伝子変異(2つ持つRPE65遺伝子の両方に変異がある)と診断されている」「視覚障害が生じている」「検査により十分な生存網膜細胞がある」と確認された成人・小児の患者さんです。
    残念ながら、この遺伝子が原因の網膜ジストロフィーの患者さんでも、病気の期間が長く、網膜色素がすでに変性・萎縮している場合には治療適応にはなりません。そのような患者さんに対しては、iPS細胞からの網膜細胞移植の研究が進められています。
    また他の遺伝子の異常によるものも対象にはなりませんが、多くの遺伝子に対し遺伝子治療の治験が進行しています。

    診断、治療を希望される方へ

    この診断、治療は一般の眼科クリニックでは行うことはできません。
    理由は、遺伝子カウンセリングなど様々な専門家の元で診断、診療、サポートが必要なためです。
    遺伝子診断は家族の問題にも発展することもあります。ですのでサポート体制が十分必要なのです。
    我々一般の眼科医がまず診察し、診断して、神戸であれば神戸アイセンターに紹介させていただく、という流れになります。
    診断、治療を行っている施設では、まず遺伝カウンセリングなどが細かく行われ、多くの検査を行ったのちに診断となります。
    治療についても、同様にカウンセリングなどが十分に行われます。
    詳しくはこちらに掲載されています。
    親戚などに網膜ジストロフィーの患者さんがいて、子供さんの視力がでにくい、などがあれば、早めに眼科医にご相談されるのがよいでしょう。

    今後も新しい治療ができれば、随時報告させていただきます。

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    【監修】

    神戸市東灘区御影中町1丁目6−9ウエダビル2,3階
    森井眼科クリニック
    院長 森井香織

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