焦点深度拡張型レンズ NSP3
こんにちは!
本日は、球面収差を応用して焦点深度を拡張した、NIDEK社のNSP3レンズについてのお話です。
NIDEK社眼内レンズ NSP3
日本の眼内レンズメーカーNIDEK社から2023年に発売された非球面単焦点眼内レンズです。このレンズは、従来のレンズにはない「光軸方向への偏位が生じても結像性能変化の少ない非球面構造」という特徴を持っているとされています。実は、これは「眼内レンズ中央に球面度数、収差を加入して、焦点深度を拡張した」眼内レンズなんです。
私が研究、学会で発表した資料を下に、解説いたします。
レンズ設計
私が、眼内レンズ光学部を「NIMO」という、特殊な解析装置で撮影した写真が下の図になります。
右側が従来の単焦点眼内レンズNSP2で、典型的な非球面眼内レンズ構造です、左側のNSP3は、眼内レンズ中央に度数が加入されていて、それが同心円状に2つあることがわかります(ベースがブルーの度数で、黄色い部分が度数が加入されている部分)。ベースは単焦点眼内レンズで、中央に度数が加入されている、今流行りの「enhanced monofocal 眼内レンズ」であることがわかります。
NSP3レンズのメリット
NSP3レンズの最大の特徴は、眼内でのレンズのわずかな位置ずれ(光軸方向への偏位)が生じても、結像性能への影響が少ない点です。これは、眼の奥にある網膜の位置(眼軸長)が少し変わっても、視界のぼやけが起こりにくいことを意味します。
実際に私の実験結果からのシミュレーションでは、NSP3は眼軸長が変化しても像の認識が可能であり、結像性能が維持されたことが示されています。これは、焦点の距離が変わっても、結像性能が保たれる=焦点深度が深い、ということを示しています。
このレンズは、IOL(眼内レンズ)の中心からの位置によって眼内に光が届く距離が異なるように設計されています。そのためこの焦点範囲内に収まれば、結像性能への影響が少ない=焦点がある、ということになります。
このような特性から、NSP3は「エンハンストモノフォーカル」とも呼ばれ、焦点の幅が広くなっています。
NSP3レンズの他の特性
NSP3は、より良い見え方を提供するために様々な工夫が凝らされていますが、いくつか特性あります。
- 球面収差について: NSP3レンズは、レンズ自体の球面収差(IOL SA)が-0.319㎛であり、NSP2の-0.150㎛と比較して約2倍の値を示しています。このため、IOLの球面収差が大きく、角膜の球面収差が大きい方には、角膜球面収差をしっかり補正してよりよい画質を提供することが可能です。しかし、角膜球面収差の小さな患者様は、過補正になってしまい、画質が低下しますので注意が必要です。
- このレンズには乱視タイプがありません。角膜乱視が-1.0D以上ある方は、乱視を矯正した方が、見え方の質はよくなるので、残念ながらこのレンズの適応になりません。
- このレンズは強度近視の方の度数があります!強度近視の方は、眼内レンズ度数計算が難しく、「屈折誤差」が生じやすいのですが、NSP3は眼軸長が変化しても像の認識が可能であり、結像性能が維持されるので、屈折誤差が起こりにくいのです。強度近視の方にはとても向いていると思います。
NSP3レンズは、眼内でのわずかな位置変化(光軸方向)にも強く、安定した見え方を提供する新しいタイプの非球面単焦点眼内レンズです。言い換えると、従来の単焦点眼内レンズより焦点の幅が広い、ということになります。保険診療で挿入できる眼内レンズで、多くの患者様にメリットがあると思います。
日本のメーカーも頑張っていますね!
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【監修】
神戸市東灘区御影中町1丁目6−9ウエダビル2,3階
森井眼科クリニック
院長 森井香織
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